01


それは敷地の裏庭でこっそり新しい忍術を試していた時に起こった。

俺、伊達家第十七代目当主伊達 政也様に支える忍頭八神 慎。

忍術の手順を一つ間違えて、目が眩むほど光を浴び俺は意識を飛ばした。

「慎様〜。政也様がお呼びです!って、あれ?ついさっきまで此処に居たのに…」

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「…っう。一体何だってんだ?」

すぐさま意識を取り戻した俺は意識をハッキリさせるように頭を軽く振った。

「…あ?何処だここ?」

城の裏庭じゃない。

瞬間移動でもしたか?いや、それにしては見たこともない場所だ。

俺は首にぶら下げていた布を引き上げ口元を隠して、すぐ側にあった背の高い木に登った。

「ここは森の中ってか。…でも何処のだよ?」

木に登ってはみたものの周りには同じような樹々が続くだけでさっぱり分からない。

「とりあえず森から脱出かな」

フッと重さを感じさせない素早い動きで木から木へと跳び移る。

すると、

「キャー!!いやっ、止めて!こっち来ないでっ!」

下から女性の悲鳴が聞こえてきた。

「ここを通ったのが運の付きだったなぁ。この辺り一体は俺等山賊の縄張りよ。さぁ、金目の物は置いてきな。ねぇならアンタ自身でもいいぜ」

次いでゲラゲラと下品な男共の声が聞こえた。

不愉快な笑い声に俺は眉を寄せ、足を止めた。

ここが何処だかよく分からないがもしこの地が奥州だと言うならば見過ごせない。

政也様は民を大事にしておられる。故に傷つける輩は許さぬ。

懐からクナイを三本取りだし、山賊と女性の間に投げ付けた。

「なっ―!」

山賊共が驚いてる隙に男達の背後へ音もなく着地し、首筋に手刀を叩き込んだ。

ドサドサと何が起きたか分からぬうちに山賊どもは地に伏した。

「そこの方、怪我はないか?」

驚いてこちらを見る女性に俺はなるべく優しく聞こえるように声をかけた。

「は、はいっ!大丈夫です。ありがとうございます!」

うん。それだけ元気なら大丈夫だろう。

さてさて人助けした駄賃に俺の疑問を解決して頂きましょうか。

「ところで聞きたい事があるんだけど、ここ何処かな?」

彼女はえ?と不思議そうな顔をしながらも答えをくれた。

「奥州、ですが…。甲斐との国境の森です。私、甲斐へ戻る途中で」

甲斐との国境ね。

「そっか、分かった。Thank you!気を付けてけよ」

「え?さんきゅ…?」

場所を把握した俺はお礼の言葉を残してシュッと姿を消した。

この先が甲斐となると俺は逆方向に進んでた事になる。

何でこんな所に飛ばされたのか知らんがさっさと城に帰ろ。

「何処行ってた、って政也様が怒ってなきゃいいけど…」

もうそろそろ森を抜ける、となった所で俺は眼下に複数の気配を感じて身を潜めた。

気配を消し、息を殺して葉と葉の隙間からその姿を窺った。

蹄の音に複数の男の声。複数といっても人数はそれほど多くない。小隊か。

旗印は…、大漁旗にふざけた文句。

アレは十分すぎるぐらい見たことがある。

「政也様?」

自分が属している伊達軍の旗だ。

と、いうことは…。

俺は先頭にいるだろうその姿を探した。

弦月の前立てに青の陣羽織。腰には六爪。

その姿はすぐに見つかった。だが、俺の知る政也様ではなかった。

姿形は似ているが政也様は右目に眼帯等付けていない。

あれではまるで伝え聞く初代の政宗様みたいだ。

「ん…?」

そこまで考えて俺は違和感に気付いた。

政也様似の彼の後ろ、付き従っているメンバー全員が自分の知らない顔ばかり。

「どういうことだ?」

とりあえず俺は伊達軍の後を追ってみることにした。

森に入っていく伊達軍を追って、来た道を戻る。

気配を殺したまま気づかれないよう距離を置いて木から木へ跳び、走った。



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